
更年期障害の1つの治療法である「ホルモン補充療法(HRT)」について
「更年期障害」の治療法のひとつとして、ホルモン補充療法(HRT)があります。ホルモン補充療法(HRT)は、加齢や卵巣を摘出することにより失われていく女性ホルモンを、外部より補う治療方法です。
ホルモン補充療法(HRT)に用いる薬剤は、女性ホルモンの中でもエストロゲン製剤が主体です。 ただし、子宮がある方には、エストロゲンによる子宮体癌の発生リスク軽減のため、もう1つの女性ホルモンである黄体ホルモンを併用するのが原則となります。
当院でホルモン補充療法(HRT)の診察・治療をお考えの方へ

初診時の状況により、当日から治療開始することも可能です。 ただし、それまでにホルモン検査や子宮癌検診・乳癌検診を行ったことが無い方については、それらの検査を先に受けて頂いてからの開始となる場合があります。
詳しくは、初診時に説明させて頂きます。
ホルモン補充療法(HRT)を行うことが出来ない(禁忌の)病気をお持ちの方は、当院でも原則出来ません。
注意して行うことが出来る(慎重投与)病気をお持ちの方は、ホルモン補充療法が必要と考えられる場合については行います。
また、ホルモン補充療法は、更年期にみられる全ての症状に効果がある訳ではありませんので、症状の具合によっては別の治療法をお勧めすることがあります。
当院のホルモン補充療法(HRT)にかかる費用の目安
原則、保険診療で行いますので処方日数にもよりますが、通常初診時最大でも、5,000円を超えることは無いと思います。あくまで目安としてお考えください。
ホルモン補充療法(HRT)に関するガイドライン

ホルモン補充療法(HRT)を安全かつ適切に行って頂くために、日本産科婦人科学会と日本女性医学学会(旧日本更年期医学会)が合同で、「ホルモン補充療法ガイドライン」を2009年に発刊致しました。
現在は、その改訂版である「ホルモン補充療法ガイドライン2012年版」が使用されております。
更年期女性におけるホルモン補充療法(HRT)の有用性
状態 | 有用性(2012年度版) |
---|---|
血管運動神経症状 | A+ |
更年期のうつ症状 | A |
それ以外の更年期症状 | B |
アルツハイマー病の予防 | B |
尿失禁の治療 | C |
萎縮性膣炎・性交痛の治療 | A+ |
骨粗鬆症予防 | A+ |
骨粗鬆症治療 | A+ |
脂質異常症の治療 | A |
動脈硬化症の予防 | B |
皮膚萎縮の予防 | A |
口腔の不快症状 | B |
A+:有用性がきわめて高い
A:有用性が高い
B:有用性がある
C:有用性の根拠に乏しい
D:有用ではない
※ここでいう有用性とは、健康保険上の適応と多少なりとも異なります。
※これらの有用性の評価は、対象者の条件によって変わります。
ガイドラインに記載されているホルモン補充療法(HRT)の禁忌症例
※基本的には施行出来ない方
- 重度の活動性肝疾患
- 現在の乳癌とその既往
- 現在の子宮内膜癌
- 低悪性度子宮内膜間質肉腫
- 原因不明の不正性器出血
- 妊娠が疑われる場合
- 急性血栓性静脈炎
- 静脈血栓塞栓症とその既往
- 心筋梗塞および冠動脈に動脈
- 硬化性病変の既往
- 脳卒中の既往
ガイドラインから見たホルモン補充療法(HRT)の慎重投与例
※治療後の状況に気をつけて投与していくないしは条件付きで投与が可能な方
- 子宮内膜癌の既往
- 卵巣癌の既往
- 肥満
- 60歳以上または閉経後10年以上の新規投与
- 血栓症のリスクを有する場合
- 冠攣縮および微小血管狭心症の既往
- 慢性肝疾患
- 胆嚢炎および胆石の既往
- 重症の高トリグリセリド血症
- コントロール不良な糖尿病
- コントロール不良な高血圧
- 子宮筋腫, 子宮内膜症, 子宮腺筋症の既往
- 片頭痛
- てんかん
- 急性ピルフィリン血症
- 全身性エリテマトーデス(SLE)
ホルモン補充療法(HRT)の投与方法
1. エストロゲン単独投与法
a. 連続投与法

b. 周期的投与法

2. エストロゲン・黄体ホルモン併用投与法
a. 持続的併用法

b. 周期的投与法

ホルモン補充療法(HRT)のメリット・デメリット
メリット
- のぼせ(ホットフラッシュ)や汗がたくさん出るような症状に対しては最も効果が高い治療法です。
- 効果がある場合は、治療開始後比較的速やかに症状を改善します。
- 血液中のコレステロールの増加を抑制したり、骨粗鬆症の予防に対しても良い効果があります。
デメリット
- 更年期に起こる全ての症状に有効な訳ではありません。
- 生理とは異なる出血や乳房に対する症状(胸が張る、乳首が痛い)などの副次的症状がみられることがあります。
- 過去に欧米で、長期間使用すると乳癌や肺血栓・脳血栓のような血栓性疾患の発症リスクが上がるとの報告がありました。